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[Netflix]不動産詐欺、ヤバすぎ『地面師たち』

地面師たち

ちょっと昔に話題になった不動産詐欺をテーマにした話題作

Netflix独占配信の『地面師たち』が今回のネタです。シーズン1で7話まであります。全部見ると6時間以上になると思いますが、1話の終わりぐらいしか食事休憩できる間がありません。普通の方は2話から最後まではぶっ通しで視てしまうんではないでしょうか。私は1話からぶっ通しで視てしまいました。エンタメ的な要素もしっかり含まれているで、くそまじめな風映画とは糸一味違います。真夜中に見始めると翌日の生活リズムが崩れるので、平日なら夕飯前に、夜中なら翌日は休日の日に見始めるのがおススメです。

実際の積水ハウスの内輪もめと詐欺被害事件を参考に、架空の不動産開発会社「石洋ハウス」をベースにしたフィクションとして描かれてます。フィクションといっても事件の構造が実際の事件と同じなので、多くの視聴者は積水ハウスの詐欺被害事件のお話として認識します。積水ハウスが騙されるお話なので、積水ハウスとしては気分の悪い話です。実世界のテレビ業界の大スポンサーである積水ハウスの機嫌を損ねることが怖いテレビ局では、この話はたとえフィクションであっても、企画も放映もできません。また、薬物で逮捕された役者や、不純異性交遊をバラされた俳優をキャスティングしている点も、Netflixだからできたという感じが強いです。一話あたり制作費が一億円以上も使えるらしいので、ちょっとした映画並みですね。ちなみに俳優は一時間ほどの尺で一千万円ほどのギャラになるみたいです。

不動産取引に興味がある人にはこの話は面白いと思います。当サイトの管理人も昔はちょっとした専門家でもあったので多少色濃く解説します。不動産詐欺のテクニックは1990年代1980年代の手法と大差なく、新種の詐欺テクニックが描かれているわけではありません

本作の見どころは絶妙な配役と騙される人が落ちていく描き方エンタメ風に上手くしているという点と、詐欺師の大ボスが凶悪で近年見る傑作の悪役に描かれている点です。出演者のキャラづくりがいい感じです。

話を楽しむためには、不動産詐欺のカモにされる石洋ハウス青柳開発事業部部長は、視聴者側からは常に嫌われる設定で走り続ける必要があります。もし視聴者が青柳部長に感情移入して「騙されないで」とか思ってしまうと作品は暗く悲しくなりすぎて、娯楽性に欠けてしまいます。そのため青柳開発事業部部長は観客から常に「オマエ、バッカだなぁなぁ~」「ザマァ~」という印象を受け続けるよう演じなくてはなりません。同情心などもらってしまったら作品が台無しです。難しい役どころです。

そのため、青柳開発事業部部長は普通より見栄えもよく頭もよく収入も高く傲慢で、仕事もできる人というキャラを維持し続けなくてはなりません。家庭ではいいお父さんとかは無しのキャラになります。

配役キャスト

私の周囲で視聴した人が口をそろえて漏らしたのが「池田エライザ」の美貌は本作で無駄遣いだという点でした。特に池田エライザがカギとなるシーンもなく、ストーリー後半では中型バイクに乗って一人で容疑者をつけ回したりするので、地面師詐欺という泥臭い詐欺とスマートでファッションモデル的な新米刑事のコントラストが上手く決まってないのです。狙ってないとは思いますが、『TAXY NY』みたいな感じにはなってません。でも、作品としては違和感を感じない人も多いかもしれません。作品では美貌が邪魔しないようにダサ目に演出されています。まずは、地面師グループのキャスティングからです。

綾野剛(辻本拓海 役)

綾野剛

実家の不動産業を父親と営んでいたが、自分が持ち込んだ不動産取引が詐欺だったとわかり、そのおかげで会社が倒産し、拓海の外出中に、父は拓海の妻と息子を巻き添えに自宅に火を放ち心中を図ります。妻と息子は死亡し、父はやけどを負いつつも一命をとりとめます。綾野剛の凄いところは、シーンの要で無言の涙を流し、ホントは俺はやさしい正義な奴ってキャラを見せているところ。演出もいいけど、演技もいい。

地面師を知ろう

不動産の所有者(登記簿の登記名義人)になりすまして、他人の土地を他人に売り飛ばして金品の授受に持ち込む詐欺師が地面師です。他人の不動産を売却すること自体は違法でも何でもない(売却当日には本物の不動産所有者から目的不動産を入手していることが前提です)のですが、他人の不動産を自分のものだと偽って所有権移転登記などを行うと、犯罪になります。

不動産は購入して手に入れるだけでは不十分で、不動産所有者として登記簿上に記録されて初めて第三者に対してもその土地の所有者が自分であると胸を張れるようになります。つまり、第三者も認める所有者になるわけです。結果として、ビルを建てて部屋を貸すような活用ができるようになります、役人が登記簿に記録することを登記と呼びますが、申請が受理されて、その登記が完了するまでに時差があります。例えば必要書類を提出して登記完了までに一週間ほど必用なことが多いです。また、詐欺師がつけ込むポイントとして登記は提出された書類がまっとうなものである限り(偽造などの偽物ではない限り)、登記官は受理して登記を実行しなければならないと法律で定められています。つまり、登記官は登記申請を受けてから、提出された書類が本物であるかどうか、所有者が登記を受けている法務局にある保管資料と同一の内容であるかどうかを確認します。例えば印鑑証明書を偽造していれば、所有者の実印は登録されたものとは違ってきますので、この点で偽造がバレて、登記申請は却下されます。この時点で地面師詐欺が発覚します。

地面師は詐欺師ですので、これまで説明してきてような登記のプロセスを悪用するのです。警察をだますようなテクニックは不要で、必要書類を集めてくる技術が重要視されます。なぜなら、不動産登記は提出された書類が真正なものである限り、登記が実行されると法定されているからです。登記官本人の意志で「この申請って嘘っぽいな」などと疑って登記を実行しない(却下する)なんてことはできません。登記官が登記を実行できないケースは不動産登記法25条に法定されています。登記官はこのルールに縛られるわけです。本地面師の事件では、不動産所有者でないものが他人様の不動産を売買して登記を実行させようとするのですから、当然に法律上、無権利者による登記申請(却下事由は不登法25条四号)ということで却下されます。申請書が受理されて、審査が始まり、登記が実行される(書き込まれる)までに一週間ほどありますので、地面師はこのタイムラグと登記ルールをフル活用します。登記官が審査を始めるまで、提出された印鑑証明書が本物かどうかなんてほぼバレないからです。必要書類の中には、所有者本人でないと取得できない書類がありますから、地面師はこういった書類を偽造して本物だと偽って詐欺を行います。

豊川悦司(地面師リーダー、ハリソン山中 役)

豊川悦司

ハリソン山中は最近の作品でも特筆する味のある悪役。ハリソンはバブル時代に地上げで名を馳せた元暴力団幹部。不動産詐欺が専門でマネロンもイトマン事件の許永中クラスにこなす知能犯。語学にも堪能で、国内での拉致・誘拐・死体処理は国内の不法滞在ペルー人を使うのか、スペイン語で指示している。インテリで酒や芸術方面にも造詣がある反面、イカレた殺人鬼でもある。仕事が詐欺師で趣味が猟奇殺人というイカレ方が最高。
いつも誰にも敬語で丁寧語を使うヤクザなので、何考えてるかよくわからない感がイカレ感をブーストしています。第七話のラストの行動は、無茶し過ぎでもう少し脚本を練れば良いのにと思いましたが、手りゅう弾もどきを扱うのは、元ヤクザ暴力団幹部というより傭兵崩れという感じで、決して近寄りたくない外道を豊川悦司が絶妙に演じます。レクター博士とアントン・シガーを足して猟奇的な凶暴性を増長させた感じ。

ピエール瀧(詐欺の交渉役:後藤 義雄 役)

ピエール瀧

後藤義雄は元法律屋でカモにする買い手との交渉と仲介を台頭する役回りです。専門知識を活かし、他の共犯者が答えられない質問をされたときに、口達者に話を逸らしたり丸め込んだりする。
下手な関西弁を話す役ですが、ピエール氏はもともと役者ではなくミュージシャンで、今回は相方の石野卓球氏が今回サントラ担当で、いい仕事をしすぎです。本作品でピエール氏は謎のアドリブを入れていて、動きの意味は分からないけれど、場面にはものすごくマッチした感じの意味不明アクション最高です。シーズン2には後藤義雄としてピエール氏は登場できません。本シーズン後半で殺されています(殺されるシーンそのものはありません)。

小池栄子(詐欺のキャスティング担当:稲葉麗子 役)

小池栄子

ハリソンの地面師チームで手配師と呼ばれる詐欺に利用するキャスティングを担当する。実際の数億規模の詐欺師、地面師にこんな役は多分ないと思いますが、100億円規模の詐欺ならあるんですかね。本作では、キャスティングした尼僧役が途中で使えなくなったため、麗子が直に髪の毛を剃り、尼僧役をやることになるというのが面白いですね。なお、地面師事件では替え玉役は高確率で逮捕されます。なぜなら、身分証明証に自分の写真を使うことが多いため、警察としても調べやすいということですね。

北村一輝(竹下 役)

北村一輝

竹下シャブ中毒情報屋で、カモにする不動産の上方を調べ上げる役割。シャブ中という設定なので、イカレたことを躊躇なく実行する。後半、無謀にも進行中の詐欺を邪魔したためハリソンに抹殺される。北村一輝の役としてはもったいな感がある。もう少し露出が多くてもっと重要な役でもよかったと思う。下っ端、コマ使いとしてオロチを子分として使う。

アントニー(オロチ役)

アントニー

お笑い芸人アントニー(マテンロウ)が演じるのが竹下のパシリのオロチです。本作ではオロチが作品の終盤まで重要な役割を果たします。オロチなしでは面白くない作品になったかもと思わせる気すらします。チンピラの役割なのですが、とこを上手く雲時ますね。

染谷将太(偽造屋の長井くん役)

染谷将太

染谷将太演じる永井くんは、身分証や公的証書の偽造を手掛けるニンベン師と呼ばれる偽造屋です。ニンベン師とは警察用語で、偽造のといいう文字が「にんべん」であることに由来しています。もともと、警察の捜査情報が簡単に外部に漏れないようにとの捜査関係者の間で使う隠語でした。ハッキングのスキルにも長けていて、拳銃まで作れるのか、どちらにせよ、調達できます。猫好きで、ウーバーも来ない工業地帯にある廃ビルをアジトにする。詐欺師メンバーの中では逮捕リスクも少なめで一番安全な反面、技術が常にとびぬけていて知能も必要な詐欺師には重要な役割。現実の地面師は長井くんのような万能の偽造屋はあまりいないそうです。偽造屋から犯行がバレているケースもよくあるので凄腕の偽造屋は重宝されるのは現実社会も同じようです。

リリー・フランキー(刑事 下村辰夫役)

リリー・フランキー

リリー・フランキー演じるのは警視庁の刑事です。地面師グループの一味の役の方でも十分通じるキャラですが、本作では地面師グループのメンバーではなく、地面師を負う側の警視庁捜査二課(詐欺などの知能犯担当)の刑事役です。通称「辰さん」。

池田エライザ(新米刑事 倉持 玲 役)

池田エライザ

下村刑事とコンビを組む刑事ドラマが好きな捜査一課志望の新米刑事。池田エライザ自身がモデル出身の女優なので見てくれが良さすぎて、地面師をテーマにするような泥臭い刑事の役に不釣り合いにも見えます。倉持玲としてはバイクも乗りこなし、格闘技も強いというさすが殺人事件を担当したいというだけある腕っぷしですが、工作員ではないのでそこまで美貌は必要ない気がします。もう少しオバサン女優を配役した方が倉持刑事の味は出たかも。

オクイシュージ(情報屋くぼた まさし役)

オクイシュージ

本ストーリーで下村刑事「辰さん」はハリソンに殺されるのですが、この久保田は下村刑事の弔い合戦として情報屋として活躍します。下村刑事が最も信頼を寄せていた情報屋です。情報収集能力は異様に高く、裏社会ともつながりが強いっぽい。マニアに視聴をすると、この俳優が演じる情報屋のキャラに引き込まれます。もとゴシップ系の情報雑誌のライター崩れで、やばいネタ記事のためにヤクザの虎の尾を踏んで、裏社会の連中にシバかれかけたときに、下村刑事に助けてもらったことを恩にきている男です。最高なのが、倉持刑事と喫茶店で打ち合わせをするシーンで、アイスコーヒーを飲む際に氷もまとめて口に入れてガリガリとやるヤバサ加減が最高です。しかも途中で下村刑事を思い出し泣き始めるといういうのが良すぎです。

マキタスポーツ(地上げ屋 林利勝 役)

マキタスポーツ

歌を歌えば上手すぎて、演技力も異様に高いマキタスポーツが演じるのが、地上げ屋林利勝です。地面師に石洋ハウスへのコネを紹介する役割です。表社会と裏釈迦の橋渡しをする役です。かつて石洋ハウスの青柳と組んだ案件で、地上げに絡み、3年の懲役を喰らった裏社会のブローカー。地面師グループのメンバーではないが「善意の第三者の立場」をキープして地面師たちにカモになる買い手を紹介することにより、手数料や紹介料を手に入れ、民事上の訴追を逃れるのが王道の役回り。

駿河太郎(マイクホームズ 真木悠輔 役)

笑福亭鶴瓶を父に持つ俳優、駿河太郎が演じるのが、投資用ワンルームマンションの開発、販売を手掛ける新進の不動産企業「マイクホームズ」の社長、真木悠輔です。恵比寿駅近くの土地にかかる不動産取引で地面師の標的(カモ)となります。カモ感はまずまずで「ざまぁ」感はそこそこ出てますね。

山本耕史(青柳隆史 役)

山本耕史
山本耕史

「石洋ハウス」開発事業部部長。本作品では騙されるカモの役。目的のためならコンプライアンスも無視して部下もそれを強要するいかれパワハラ気質の男。本作では青柳のブローカーや地上げ屋にもコネがある高級エリート野心家ヘタレサラリーマン社長の安倍川に育てられ、現在の開発本部長の地位まで昇り詰めた生粋の社長派。須永とは出世競争で対立している。妻がいるが夫婦仲は良くないらしい。

青柳開発事業部部長の下半身関連描写

山本耕史

本作の青柳開発事業部部長は男性器に準えてその立場、特にモチベーションを描写している。青柳は男性器がパワーの源であり、初めの土地取得に失敗した時点では勃起すらできない、軽犯罪の立小便ぐらいしか自身の男性器は使い道がない。でも、もう一息で目的の不動産が取得できるとなったときは、デスクに座り、男の生きざまを示すように、スーツのパンツの上から自身の男性器を強く握りしめる。まるで、もう少しで欲求から解放されると期待しているように。

山本耕史

土地不動産の売買契約が成立し、登記申請も受理されたときには社長秘書とガラス張りのホテルの高層階から立ちバックを決め、秘書に「見えるか、あの土地がオレが勝ち取った土地だ」と男前ぶり見せる。このシーンはダサい。誰ものぞいてない高層階での情事なら、二人とも服くらい脱ぐべきで、青柳がパンツをはいたまま小用ポケットから出せるほどの小さいイチモツを出して秘書を突くシーンは見ていて滑稽(エンタメ)。秘書を突き上げるシーンは弱弱しくて、見てて情けなく気持ち悪い。ここは男なら手を抜くべきではない、しっかり裸で汗かいて、勢いよく動いて勝負すべきだった。Netflixならもう少し大胆なシーンを使うところだったろう。ダサすぎ真面目にやれってシーンでした。子供向けに配慮しておしくらまんじゅう風にしたのかな。

閑話休題。立ちバックを決めるところまでが青柳のメンタルの遷移で、股間で青柳のポジションを語っています。東京の一等地を手に入れたと感じたのです。大企業の主要部署のトップになっても、男は誰もがよく似た欲望を持っているものです。

谷川昭一朗(社長 安倍川 久雄役)

谷川昭一朗

「石洋ハウス」社長。「石洋ハウス」会長は海外事業に、社長は会社の国内事業の実権を握っている。青柳が提案する光庵寺の土地取得に乗り気になる。青柳開発事業部部長が100億の不動産取得の社内規定に則して社長決裁を取るために、ずるがしこい悪知恵をつけて青柳をサポートする。青柳は社長に気に入られて取締役会のメンバー入りすることが人生の目標にもなっているので、使える部下として動かす。青柳を活用はするが、自分まで責任を取ることは極力避けるよくいるタイプですね。

コイツ悪い奴です。社内規定では、社長決裁をとるために、その前段として、社長が承認印を押す前に、平の取締役全員の採決が必要です。取締役としては本人確認も済ませていない土地取得に100億円のキャッシュを用意する(実質上支払う)ということには、後々の責任問題を考えると関わりたくありません。

しかし安部川社長は、まずヒラの取締役全員の承認印がない限り、社長としては決済印を押せませんので、青柳本部長に他の取締役に判を押させる知恵をつけます。青柳にこう言います。「開発事業部本部 青柳部長の案内部長の案内により安部川社長は現地視察済み」とメモ書きで稟議書に記載しろ。そうすることで他の取締役は承認印を押さざるを得なくなる。「その後、社長の俺が承認印を押すときにそのメモ書きを消しておく。」という知恵です。こうすることで稟議書は社内規定に違反せず成立し、視察の是非の責任も残らないという小細工です。メモが残ったままだと、社長が視察済みだったから、良案件だと判断して承認しましたという他の取締役の責任逃れの言い訳保険が通りかねません。だからメモ書きを消して証拠を消しておくのです。しかも証拠は社長が承認印を押すときに消すという、ヤバい野郎です。もし、不動産に問題があったとしても取締役と青柳の責任だからな、オレは知らんぞ、と暗に示しています。

本作では安倍川社長が一番小汚くてズルくて自分の手を汚さない悪に描かれている。現実社会はこんな奴ばかりです。

松尾諭(青柳と対立する好敵手、須永役)

松尾 諭

「石洋ハウス」商業事業部部長。港区高輪の不動産取引を当初から怪しむ、やり手社員、青柳に対して地面師詐欺ではないかと直接訴えている。コンプライアンスに反する青柳のやり方を古いと一蹴した。青柳とは出世競争のみならず、会長派として派閥争いでも対立している。

俳優の松尾氏はいつもいい味出してくれる俳優ですね。今回はキーになる役ではなかったので、多少印象薄めですが、登場する場面では存在感は抜群にあります。本作では須永商業事業部部長の言ってたことがすべて正解だった、正しかったというオチがつくのも面白いところです。

石野卓球(サウンドトラック)

石野卓球

本作のサウンドトラック担当の作曲者が電気グルーヴ石野卓球氏です。本作品には役者としては登場していません。普通に考えれば、テーマ的にアコースティックで仕上げたいところをエレクトロ、アンビバレントに仕上げてまとめているところは、すごい才能を感じます。おかげでどのシーンでも役者が全力で演技しても音楽がそれを邪魔することがなくなっている。今後はこういうまとめ方ができる人しか生き残れない気がします。

不動産詐欺の手法

不動産詐欺は普通の詐欺同様、偽物の偽造書類と合わせて偽人物を本物の人物と取引相手に思わせるところにキモがあります。

偽造書類は可能か?

ドラマでは本物と見間違うような偽造書類が登場しますが、現実社会ではもっとバレバレのものが使われます。本物同然の免許証やパスポートも存在するらしいですが、品質が良いものは入手先が限られているらしく、容易ではないはずですね。作成費も高いはずです。他のドラマでは本物のパスポートの用紙と同じものを入手して、本物と同じ方法で偽造パスポートを作るようなシーンがありますが、あまり現実味がないように思います。

本ドラマで出てくる印鑑証明書や登記事項証明書、公正証書などの偽造は簡単です。これは本物の場合でも役所が普通にコピー機で専用用紙にコピー出力したものに、役所や所有者の印鑑を押したものだからです。印鑑そのものは、コンピューター連動の加工機で作成しますので、旧来の印鑑は容易にコピーできてまいます。偽屋はいかにして専用紙を手に入れるか、スキャンをうまくやるかにかかっています。1990年代のように偽造屋のインクのこだわりは減っているようです。

地面師的不動産登記悪用法?

本ドラマでは地面師は不動産詐欺のプロフェッショナル集団みたいなことだ煽りますが、何を言うか、ただの詐欺師です。もともとは、役人、弁護士や司法書士、宅地建物取引者崩れはたくさんいますが、詐欺の実力まで備わった人はそんなに多くないはずですので、地面師を持ち上げるような表現はやりすぎないようにしましょう。繰り返しますが、ただの詐欺師です。もっと一般的に言えば、ただのウソツキのドロボーです。元役人の方が地面師になりたいのなら、公金を数千万円単位で横領した実績のある人で、順法精神がぶっ飛んでないと、多分成立しないと思います。

善意の第三者を活用する

不動産詐欺のみならず、詐欺事件では法律上の善意の第三者を活用するのが定石です。本事件では本物の所有者でない不動産の持ち主を他社に紹介する役(地上げ屋の林)などがこれにあたります。善意というのは裏で詐欺などが行われていた事実を知らなかったという事実だけで足りるので、一番活用しやすい詐欺グループの一員になります。何か怪しまれたら「知らなかった」を連発すればよく、それだけで賠償責任や得た利益の返還義務などがなく、共犯者として刑事罰を受けることもありません。甘ちゃん詐欺師がよくやるミスとして、賠償や罪を免れるためには善意の第三者というだけではダメなケースで善意無過失まである必要が場合があります。例えば司法書士が売主の本人確認をする際にケースに入れたパスポートや免許証を、ケースの上から確認しただけのケースなどは、善意無過失にはならず、善意かも知らんけど過失ありとみなされ、損害賠償の対象になります。ケースに入った身分証のケースはケースから出して紙ざわりなどを確認しなければならないとされています。賠償額は被害額の一割から二割ですので、本ドラマだと本人確認をいい加減にやっていたら、11億超えの賠償をしなければならなくなります。

不動産登記法の様式主義を悪用する

不動産の所有者は原則、各地の法務局に備えられている登記簿に記載されている登記名義人が所有者になります。厳密には登記簿上の名義人と本当の所有者が異なるケースも少なくありませんが、詐欺師がこだわるのは登記名義人です。詳細は省きますが、判例でも登記簿の登記名義人が不動産所有者だと公信力を認めたようなものがありますので、地面師はこのことを徹底的に利用します。加えて善意の第三者を間に挟むことで、下手したら詐欺転売が実体法上有効になってしまうようなケースも起こりえます。

ドラマ・小説ならではの脚色を探る

ハリソンが竹下を殺るシーンが度肝

ギャラアップを要求する竹下に対し、詐欺後半でハリソンが竹下を消してしまうつもりであることは、観客の誰もが予想しています。竹下もプロの詐欺師なので、ハリソンがギャラを払う気がないことぐらいはすぐに感じ取ってしまいます。そのため、詐欺後半で竹下は自分を除くハリソン一味を裏切り、所有者立ち合いの日に本物の不動産所有者を、現場に向かわせて邪魔しようとします。

ハリソンもプロの詐欺師ですので竹下が裏切ることぐらいは計算済みで、竹下を沖縄で殺害するのですが、そのシーンが「シャブの打ちすぎで死亡」というよくある偽装ではなく、ウエスタンブーツで頭蓋骨を踏みつけぶっ壊すという黒い殺り方をします。このシーンは概ね、観客にハリソンのイカレ具合を植え付けるものとして効果絶賛という評価です。

「最もフィジカルで、最もプリミティブで、そして最もフェティッシュなやり方でいかせていただきます」

このセリフいいですね。猟奇ぶりが出ていて、イカレ具合が伝わってきます。このセリフを言った後、一味のメンバー竹下の頭蓋骨を生きたまま思いっきりウエスタンブーツで踏み砕いて叩き割るという、えぐいやり方です。映画『SAW』みたいな発想ですね。殺し終わった後はハリソンがエクスタシーを感じている表情をするので、まさに快楽猟奇殺人って感じですね。

ハリソン山中はイタイのか?

本作でハリソンは過去に暴力団員のときに一度逮捕されていて、下村刑事に取り調べを受けているのですが、これが名悪役としてはダサいという感想を耳にしたことがあります。ジョーカーのように犯罪歴がないスーパー犯罪人的なカリスマを求めているのでしょうが、地面師という役柄上逮捕歴がないと、物語が進めにくいです。詐欺で捕まったという設定をダサイと言っているのかもしれませんが、暴力事件だと刑期を考えると設定が難しくなります。私の意見としては偽造パスポートで入国して、フィリピン警察に捕まる程度のユル詐欺的なキャラ紹介でもよかったように思います。

紡織団員で逮捕歴があるからと言ってハリソンがダサいというのは言い過ぎですね。婦女暴行で逮捕とかだと作品的にダサくなりますが、地上げ絡みの暴力や詐欺なら、ダサくもなっていないと思います。

地面師詐欺で本当に土地が奪われることはあるのか?

本ドラマでは地面師詐欺で用いられた証明書を登記官が見抜き、所有権移転申請を却下していますが、マヌケな登記官なら、申請をそのまま信用して、登記を実行してしまうことがあり得ます。本ドラマの場合だと、石洋ハウスに土地の所有権が登記されてしまうということがあり得るのかという点ですが、ありえます。この場合は、登記官の職権で修正してくれるように期待しそうですが、詐欺の場合は善意の第三者との絡みがあるので、簡単にはいきません。

お金が絡むのが普通ですので、この場合は民事と刑事のダブルで処理を進めていくことになります。詐欺師はお金はとっくにロンダリングに回しているので、お金がそのまま戻ってくる可能性は少ないです。

地面師は儲かるのか?

地面師は詐欺師なので腕前次第では、マル儲けになります。しかし、登記実行時に詐欺が発覚すのが普通ですので、詐欺で得たお金を持って逃げるのが地面師詐欺の醍醐味とも言えます。本作品では東南アジアやフィリピンに高跳びしていますが、高跳びして安全に逃げてしまわないと大金をゲットしても、そのお金を使えません。本作ではハリソンがマネーロンダリングして、足のつかないお金にしてから仲間に分配しています。マネーロンダリングは、お金の形を変えますので、日本の官憲が手を出せない国を一つ挟まれると、日本としては、それ以上手を出せなくなります。

マネーロンダリングはFXのような通貨の交換だけで済むような単純なものでなく、途中に架空の会社をいくつも挟みます。米国は多少複雑になっても追跡できるうですが、日本としては独自の追跡手法を持っているような感じをうけません。おそらく日本は、100億円規模のマネーロンダリングになれば、米国の協力を仰いでいると推察されます。それでも、海外で不動産やその他の資産に変えられてしまい、その運用益も見越して詐欺師はマネロンしますので、詐欺師が逮捕されてから数年服役して出所するころには、莫大な資産を築いているというケースもあり得ます。ドラマ本編でもありましたが、詐欺で服役して出てきたら100億近い資産がまるまる使えるという場合は、これをもって儲かるというのは嫌な気分です。

地面師対策法

数十億円規模の不動産であれば、地面師対策は何重にも行い手続きの正当性を担保するのは常道ですが、一億円未満の規模の不動産の場合、対策を優先してしまうと、いいネタにありつけなくなるビジネス的リスクもあります。本人確認を執拗に行うことで、なりすまし詐欺はほぼ防止できるのですが、それはほぼ、ほぼ本人であると思える相手に対してしぶとく取り調べ尋問のようなことをするわけですから、売主の機嫌を損ねる可能性は高いです。例えば、積水のような大手が興信所を使って本人確認途中に、あまりに執拗さに辟易した地主が他社に売却してしまうということが現実にはよく起きます。先手の大手がほぼ本人確認を済ませているので、後続の買主は大まかに本人確認を終わらせます。つまりライバルの後続会社にとってはいいところできるのでお得になります。本人確認は、綿密に行えば問題ないのですが綿密がビジネス的に正しいかどうかも考慮しつつ、不動産売買の正当性を担保するためにその他のテクニックを使うのができる買主です。

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