本サイトではアフィリエイト広告を利用しています

Amazon Hulu U-NEXT VOD 映画

エリートには闇と秘密アリ?『TAR/ター』

TAR/ター

一見すると、本当に実在している指揮者なのかなと思ってしまうほど、恐るべきクラシック音楽界の裏側がリアルに感じたお話。巧妙なヒューマン・エンタテインメントと仕上げられた傑作です。

傑作ですが、2023年度のヴェネツィア国際映画祭、ニューヨーク映画批評家協会賞、ゴールデングローブ賞に関しては、主演女優賞(ケイト・ブランシェット)を受賞しましたが、アカデミー賞などにはノミネートだけで受賞には至りませんでした。監督は『イン・ザ・ベッドルーム』のトッド・フィールド。

本作品は、 hulu U-NEXT Amazon プライムビデオ で視聴できます。

あらすじ

リディア・ター”はクラシック界の女帝、作曲家で、女性初のベルリン・フィル首席指揮者。

ドイツのベルリン・フィル(BPh)は世界最高峰のオーケストラの一つである。
女性として初めて、リディア・ターが首席指揮者に任命された。

彼女は天才的な能力とその実力、実行力でカリスマとなり、自身がブランド化するまでに成功する。作曲家としても、他を圧倒すし政治的権力を手にしたター。・

成功と同時に、マーラーの交響曲第5番の演奏、その録音の重圧に悩み、新曲の創作に苦しむ。そこに追い打ちをかけるように、かつてターの教え子で、若手指揮者が自害してしまい、その原因にターに疑いがかけられる。
完膚なきまでに、自己完結できるターは、次第に追いつめられていく、衝撃のクライマックスに至る。

みどころ

世界クラスの指揮者になると個性も強烈で、とてもじゃないけれど高潔な精神なんて保っていられないところが、いい感じに描かれています。

指揮者ですので、普段のなり振る舞い、発言や生活様式は、本当に高潔です。でも、それだけでは最高の指揮はできません。貧乏タレが金持ちらしく振舞うのとは別次元のもので、何かを得るために高潔さからそれるという感じでしょうか。

音楽界の頂点に上り詰めた天才芸術家の転落と狂気を描く

TAR/ター(hulu)

誰しもが抱いている孤立感が生々しい

音楽界の頂点に上り詰めた天才芸術家の転落と狂気を描く

TAR/ター(U-NEXT)

誰しもが抱いている孤立感が生々しい

音楽界の頂点に上り詰めた天才芸術家の転落と狂気を描く

TAR/ター(Amazon プライム)

誰しもが抱いている孤立感が生々しい

キャスト

ケイト・ブランシェット(首席指揮者リディア・ター役)

ケイト・ブランシェット

リディア・ターは世界がその才能を認めるアーティスト、指揮者、かつ名門ジュリアード音楽院で教鞭も取る。生来の女性だが、マエストロと男性名詞で呼ばれるほど、女性男性の枠にはまり切らない存在で、男性中心のクラシック音楽業界をリードしている。そして、家庭のパートナーは女性、つまり彼女からは、男性社会が勝ち残ってきたからか、女性らしさは抜け落ちている様子。

彼女はレズビアンだが、モノをいうキャラクターで、パートナー関係では不誠実な行いも多い(俗に言うヤリマンって感じではないが、パートナー以外の女性と不誠実な関係を持っている模様)。関係を持ってくれない相手には、攻撃に転じてしまう性格も併せ持つ。本編では性的な関係性をもつパートナーはシャロンしか描かれていない。

彼女には養女の「ペトラ」がいて、全面的に愛情を注いでいる様子。しかし、どちらかというと母性愛というより、父親としての愛に近い。

ターは、一言で言ってしまえば、並外れた実力がある高学歴の芸術家、音楽家で、仕事以外にも男性ができそうなことは、ほぼほぼ並み以上にこなしてしまう、常人からすれば近寄りがたい存在でもある。しかも、政治的な権力すら備えている。そのため、自分と意見が対立する人物を、徹底して叩き潰す性格ものぞかせる。

例えば、ターの授業で一人の男子学生と意見が食い違うシーンがあるが、自分自身に絶対的な自信を持つターは、相手が学生だろうが子供だろうが容赦はしない。

その意見の違う男性(マックス)を、クラス全員の前で完膚なきまでに持論を展開し叩き潰す。その男子学生は、間違いなく再起不能になるだろうが、そのシーンは、ターに関わる今後の展開を予感させる、つまり伏線になっている。

ターは相手が子供であっても容赦はしない。養女のペトラをいじめる同学年の女子に、普通の大人に対して通じる脅しを躊躇なくしかける。「私はペトラの父親だよ(私を女と思ったらだめだよ、母親みたいに甘ったれた罰を受けさせないよ)。ペトラをいじめたらひどい目に合わせるわよ。」もちろん、子供の女子学生はビビってしまい、反抗できなくなる。

普通に彼女を男性だとみなしても、嫌なヤローだけど、ケイト・ブランシェットの妙演もあって、胸糞悪くはならない。

そして、かつての教え子、クリスタの自殺により、この完璧なカリスマ・アーティストの歯車が狂い始める。

音楽界の頂点に上り詰めた天才芸術家の転落と狂気を描く

TAR/ター(hulu)

誰しもが抱いている孤立感が生々しい

ノエミ・メルラン(指揮者を目指すアシスタント、フランチェスカ・レンティーニ役)

ノエミ・メルラン

フランチェスカは将来の指揮者をめざすターの弟子かつアシスタント。かつて本作のキモになる人物、クリスタとフランチェスカは一緒にターのアシスタントこともあり、クリスタには友情を感じている。

アシスタントという手前、クリスタからのメールはフランチェスカが直接目にするところになるが、ターはクリスタから仕事の斡旋絡みの内容にとどまらず、彼女からのメールは無視するように言いつけられる。

クリスタからのメールの内容は、次第に深刻になり、フランチェスカは目を通すものの、ターの言いつけを守り、無視する態度をとる。その後、クリスタは自殺してしまう。

フランチェスカはクリスタがいなくなった経緯を含め、その理由とともに、これまでのターが裏でやってたことを知っている人物です。クリスタが自殺したことを知ると、それを泣きながらターに伝えるが、ターのクリスタへの気持ちの冷たさを感じてしまう。さらに、今までターに尽くしてきたので、副指揮者のセバスティアンの後任に選ばれると信じていた。しすし、として真っ先に選ばれなかったこともあわさり、ターの元を去るとともにターへの攻撃側に回る。

本フランチェスカを演じるノエミ・メルランはケイト・ブランシェットが、自身の役者をやる上で、最も影響を与えた人物であると、絶賛しています。

ニーナ・ホス(ベルリン・フィルの第一バイオリン、シャロン・グッドナウ)

ニーナ・ホス

シャロンはターのパートナーで、ベルリン・フィルの第一バイオリンを務める。ターを公私共に支えている女性がシャロン。

シャロンは動悸が日常的に起こるような体調の問題を抱えている。ターは女性関係が乱れていて、浮気と思われることも黙認している。

ターとシャロンには愛情を注いでいる養女のペトラがいる。

シルヴィア・フローテ(ターのかつての教え子、クリスタ・テイラー役)

シルヴィア・フローテ

リディアはターのかつての教え子で、師匠のターに指揮者となるキャリアを妨害される。本作ではあまり映像では登場しませんが、本作のコアになる人物です。

あらゆる楽団に採用応募するごとに、「クリスタの採用はお勧めしない。彼女は精神的に不安定」というメールを、裏でターはその楽団宛あてに送られる。そのおかけで、クリスタは楽団に入れず、自分のしたい仕事には就けなかった。そして、何度もターに、この問題の解決を求ることになる。

そして、クリスタは作中で自殺してしまいます。かつてターに性的関係を強要され、悩んだ末にターのもとを去って行った、裏切ったという過去があります。ターは裏切ったクリスタが音楽業界で働けないように、非難するメールを各所に送っていたのですが、その証拠は隠滅されています。

ソフィー・カウアー(ロシア人チェリスト・オルガ・メトキナ)

ソフィー・カウアー

ロシア人の若いチェリストでベルリン・フィルに加入。ターの依怙贔屓だが、実力は確か。ブラインドテストでオーケストラに認められ、ソリストに選ばれる。ターはその才能に惹かれる。

アメリカにはフランチェスカの代わり行くほど気に入られるが、オルガは実はターを利用しているだけ。その後はターにそっぽを向きはじめる。

アラン・コーデュナー(ベルリン・フィルの副指揮者・セバスチャン・ブリックス)

アラン・コーデュナー

アラン・コーデュナーが演じるのは、ベルリン・フィルの副指揮者、セバスチャン・ブリックス。

すでに歳を召していて、ターが指揮をする曲に意見をしたことにより、ターに嫌われる。ターに遠回しに「辞めたほうが身のためだぞ」と伝えられ、驚きを禁じ得ない彼だが、「あんたが贔屓の女性演奏者のことは楽団の皆知ってるぞ」と、ぼかしながら返してしまったので、引き返せなくなってしまった。

ターからしたら、セバスチャンはどうでもいい人で、いくらでも変わりはいると考えている役割にすぎなかった。

ジュリアン・グローヴァー(アンドリス・デイヴィス)

ジュリアン・グローヴァー

マーク・ストロング(エリオット・カプラン)

マーク・ストロング

トリビア

ソフィー・カウアーは演技の経験がない素人だが、本物のプロのチェリストである。彼女は、友人の勧めでオーディションを受け、マイケル・ケイン主催の YouTube チュートリアルを見て演技を学んだ。

ケイト・ブランシェットはこの映画の役作りのために、ピアノとドイツ語を学び直し、オーケストラの指揮方法を新たに学んだ。

本作のリディア・ターのモデルは、実はケイト・ブランシェットである。
フィールド監督自身がケイトが演じる前提で書いたと、そのことを明かしている。

フィールド監督はケイト・ブランシェットが本脚本を蹴った場合は、そのままボツにする覚悟でいた。

フィールド監督はとにかくケイト・ブランシェットを主役として押さえたいという一心で、2020年9月、愛車のポルシェを運転しながら、ケイトの所属事務所、ヒルダ・クエリー(Hylda Queally)に出演依頼の電話を入れる。そして「ケイトなら3年先までスケジュールがつまってるぜ、悪りぃな、トッド、あんたの映画にはまだ出演できないよ」と即答され、あまりのショックに愛車のポルシェで衝突事故を起こしてしまう。
フィールド監督の落ち込み具合、特に愛車のポルシェをぶつけて落ち込みすぎなことを知ったケイトの事務所は、「あんたの体調が悪くなければだけど、私が家に着いたらケイトに脚本を送ってあげるし、読んでもらうようにするよ」と言ってくれた。
映画でターが運転するポルシェは、フィールド監督の私物です。運転中にカタカタ音が聞こえるのは、それはフィールド監督のその時にぶつけた愛車を使っているからで、カタカタ音は修理しきれなかったそうです。

トッド・フィールドとケイト・ブランシェットは以前、別の映画に取り組むことを計画していた。しかし、資金が得られず流れた経緯がある。

本映画はモノラルで始まり、進行するにつれて徐々にトラックが追加されていく。

ケイト・ブランシェットにピアノの指導をしたのは、ハンガリーのピアニスト、ハンガリー音楽アカデミーの教授であるエメセ・ヴィラーグです。

英文タイトルが「Tár」となっているのは、ケイト・ブランシェットが、ブダペストでの撮影中、アクセント記号を入れるというアイデアを思いつて、採用された。

予備知識

ベルリン・フィルは「ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(Berlin Philharmonic Orchestra)」のこと。BPOと略されることがある。

ターがフィリピンのマッサージにいるシーンは?

TÁR/ター

映画の終わりの方で、ターがフィリピンのマッサージ店に行くシーンがあります。ターが自分の身体の疲れをとるために、ホテルマンにマッサージ店を紹介・手配を願うと、「金魚鉢」マッサージ店に連れてこられます。

そこで、ターがマッサージ師を指名するシーンなのですが、彼女たちはターのオーケストラのように配置されています。

ターが興味を持って見つめる、マッサージ師は、オルガと同じ相対的な位置に座っていて、マーラーの交響曲第5番にちなんだ5番をつけてるという、伏線(回収)です。

なお、このシーンはマッサージ店といっても、いわゆる男(女)がパンツを脱いでマッサージする店で、真面目なお店ではありません。つまり、エロおやじ御用達のマッサージ店のことで、疲れをとるどころか、疲れるためのお店です。

ターは、そういう店だとマッサージ師指名のシーンで気づき、嗚咽します。

一連の、ターがアジアに到着してからのシーンは、どうも撮影場所としてタイ王国が使われているようです。巧みにフィリピンっぽく見せて撮影しているということの様です。鉄道の駅のアナウンスはタイ語でした。

音楽界の頂点に上り詰めた天才芸術家の転落と狂気を描く

TAR/ター(hulu)

誰しもが抱いている孤立感が生々しい

音楽界の頂点に上り詰めた天才芸術家の転落と狂気を描く

TAR/ター(U-NEXT)

誰しもが抱いている孤立感が生々しい

リンダの謎

本作には、いくつか謎があります。主人公はリディア・ターですが、本名がリンダ・タールであることが後半に明らかになります。彼女はニューヨークのスタテン・アイランド出身であり、あまり裕福な家の出身でないことが、彼女の実家の場面からわかります。

この環境で、ベルリン・フィルの首席指揮者にまでなるには、相当の奨学金を得なければ不可能です。その部分の説明が、本作品では語られず、作品ではただ単にリディア・ターの優秀さだけが語られます。

一方で、後半で本名がリンダであることが明らかにされる点は、何らかのほのめかしがあるのかもしれません。成功したリンダが過去の自分と決別するために、リディアと名乗りなおしたという意味なのか、それとも裕福な家庭の養子になったのかなど、本作では語られません。

結末をどうみるか

TÁR/ター

本作の配給元によると、試写会後のアンケートで、最後のシーンがハッピーだと感じた人は32%、バッドエンドだとした人は50%だったそうです。私個人は、結末としてはバッドという感じには写りませんでした。

ターはオーケストラの指揮者として、アジアに活動の場を移し、クラシックではなくアニメやゲーム系の音楽の指揮者として、新たな道を歩みます。

私個人は、結末としてはバッドという感じには映りませんでした。ハッピーかどうかは別として、主人公ターにとっては、形を変えたスランプがやってきて、復活したという感じのように思いました。

極端な例ですが、刑務所に入って仮出所したら、それはそれでバッドエンドではなく、刑務所で殺されたらバッドという感じです。

無敗の世界タイトルボクサーが、チンピラとなりやくざの用心棒で生計を立てるような落ち込み方ではないと感じます。

世界的な高名な画家が、漫画を描いて大ヒットしたら、「高々漫画だろ」小ばかにするのでしょうか。

五連の事件で、ターは失ったものも多いですが、精神面、芸術感性面では得たものも多いはずです。ターがバッドエンドだと思っていない限り、人生はその程度のことでバッドにはなりません。

本作品は、 hulu U-NEXT Amazon プライムビデオ で視聴できます。

音楽界の頂点に上り詰めた天才芸術家の転落と狂気を描く

TAR/ター(hulu)

誰しもが抱いている孤立感が生々しい

音楽界の頂点に上り詰めた天才芸術家の転落と狂気を描く

TAR/ター(U-NEXT)

誰しもが抱いている孤立感が生々しい

関連記事
ファーザー
認知症をバーチャル追体験『ファーザー』

一回見たけど、わけがわからず終わってしまったという人は、本記事を読んでください。まだ作品を視ていない人は、まず一回は視て ...

続きを見る

-Amazon, Hulu, U-NEXT, VOD, 映画
-, , , , ,