2001年の米国映画、主演は名優、ジャック・ニコルソンですが、まだ有名になっていなかった頃のアーロン・エッカート(刑事役)やベニチオ・デル・トロ(容疑者役)出演しています。有名ですが、このころにはすでにオバサン年代のヘレン・ミレン(精神科医役)もいます。若き頃のロビン・ライトも出演していて、彼女は「ワンダーウーマン」(2020)でアンティオペ将軍を演じています。美貌はさすがパリコレのモデルまでこなした女優ですね。また、ミッキー・ロークも脇役出演していますので、過去映画の見直し作品としても、おすすめです。
この作品は俳優としても有名なショーン・ペンが監督しています。ショーン・ペンと言えば、かつてのマドンナの夫だったりと話題も多い人ですが、演技者としても製作者としても、能力は高い人物です。
ショーン・ペン作品は癖があって、何か熱く感じるものがテーマの裏側に流れこんでいます。それが満たされない欲求だったりするのが、視聴者側からは厄介で、いったんハマルと何度も見てしまいます。
みどころ
この作品は、同監督の『イントゥ・ザ・ワイルド』と同じく、ストーリー自体は普通の殺人事件の犯人に迫るお話です。でも、ミステリー映画ではありません。主人公を通して描かれる人間ドラマです。名優陣が発するセリフも、大して多くは無く、ひたすらじっくり画面を観て感じて味わう映画です。セリフやストーリーはどうでもいいから、この重さを感じてくれという映画です。
本作の観賞ポイントは、ひたすらジャック・ニコルソンが演じる刑事ジェリーに、どこまで感情移入できるかどうかです。女性の場合は、お父さんの気持ちを察するがごとく、感情移入できれば楽しめます。名優ニコルソンですので、程度の違いこそあれ、特に苦労なく移入させられてしまうとは思います。
冒頭から少しして、少女が惨殺されるのですが、退職間近の刑事ジェリー(ニコルソン)は被害者の母親に、犯人を逮捕することを誓います。
この誓いというのが、タイトルの「THE PLEDGE」になっています。約束などよりもっと重い言葉で、誓約と訳されることも多い言葉です。キリスト教圏でのこの意味の重さは、日本人の想像するものより重いものです。この「誓い」に良くも悪くも縛られてしまう、刑事ジェリーの感情の動きが、本作の見どころです。
ジェリーは事件未解決のまま、退職しガソリンスタンドを所有して、のんびりと過ごすことになるのですが、退職時に約束した「犯人逮捕」が頭から離れません。自分に課したものから逃れられないジェリーは、犯人をどうにかするという妄想にすら取り憑かれます。
ジェリーは善良な市民で、制作陣としてはそれ相応のエンディングで観客を納得させるのが、一般的なまとめ方だと思います。しかし、そうはならないのが本映画です。つまり、考えさせられる終わり方で閉めてしまうので、観る人を選びます。お子ちゃまにはお勧めできないということでもあります。全編を通じて、ジェリーが殺されるわけでも死ぬわけでもなく、身近な人がなくなるわけでもなく、ひたすらダメージはジェリーの心にのしかかります。
つまり、視聴者はそのダメージを、単に映画を視ているだけで味わえてしまうというのが、いい意味でも悪い意味でもヤバイところですね。
ショーン・ペンが監督するだけあって、安っぽい終わり方や、犯人を捕まえてハッピー・エンドみたいにはありがちな駄作ではありません。少々、責任感のある男性が鑑賞すれば重い終わり方なのですが、日常で当たり前に起きていることを、心に重くのしかかるように見事に描いた本作は傑作の一つだと断言できます。これまでの表現で、察したかもしれませんが、本作で感情移入すればするほど、救いのない終わり方になります。ある意味、とても残酷です。でも、それが『プレッジ』なんですよ。
誓いは守るべきものなのか?
子供の時は、約束を守らない人間は許されない、信用されない、社会の屑であると教わりましたが、男女にかかわらず、大人になるまで約束を破ったことのない人なんていないと思います。
いや、約束を破ったつもりは無くても、約束を守れなかったという人は普通の人です。本作のジェリー刑事は、その約束(プレッジ)に良くも悪くも取りつかれ、善行を行うつもりで約束を果たそうとします。
殺人犯を捕まえると、被害者の肉親に誓っておきながら、捕まえられませんでしたというのは、ほこりある刑事としてはとても言えないのでしょう。また、キリスト教圏の正義の意味合いを考えても、犯人は罪を償うことが期待されます。
しかし、現実世界ではそんなことはあまりありません。ドロボーしても国外逃亡して終わり、人を殺しても外国人犯罪なので迷宮入りなど、変な理屈をつけてもそうはなっていなケースが普通にあります。
プレッジに憑りつかれてしまったジェリーは、次第に妄想と現実のはざまで、それを果たそうとします。幼い少女を、勝手に犯人逮捕のおとりに使うことも辞さないのは、確実に精神がやられています。
彼に残っているのは、現役時代に培った刑事としての執着心と、被害者の家族と交わしたプレッジです。
「誓いは守るべきなのか」という問いかけには、映画を視る限り守ろうとしなければ物語は続かない、終わらないので、守るべきものです。守らずに逃げる映画にしてしまう、ひたすら逃げた理由の正当化と、その言い訳を描き続けるしかありません。そういう映画なら、あまり視たくありませんよね。
この映画の誓い(プレッジ)は期待されたことと同様の結果をもたらす終わり方をするのですが、これは因果応報というより、キリスト教圏の思想を純粋に取り入れたようにも思えます。
軽く視流せる映画ではありませんが、意味深い映画です。現在は Amazon プライムビデオ などでも視聴できますので、興味があれば自分の時間をとってしっり味わってみてください。
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